Lily Seabird – “Demon in Me”

バーリントンを拠点に活動するフォークロック・シンガーソングライター、Lily Seabirdが放つニューシングル「Demon In Me」は、彼女の音楽的進化を象徴する力強い一曲です。昨年のアルバム『Trash Mountain』で見せた削ぎ落とされたデモのような質感から一転、本作はよりラウドでヘヴィな音像へとシフトしています。楽曲はトロンボーンとクラリネットが支える繊細なワルツから始まり、中盤からは爆発的な歪みを伴う壮大なサウンドへと変貌を遂げます。そのダイナミズムは、Neil YoungやBig Thief、さらにはHop Alongといったアーティストを彷彿とさせ、ライブでの圧倒的なエネルギーをそのまま封じ込めたような仕上がりです。

歌詞の面では、不安やうつ病の兆候とも言える「内なる闇」がテーマとなっており、自由への渇望と葛藤が6分間に及ぶドラマチックな展開の中で描かれています。Seabird自身が「歌の終わりには音楽そのものが自由を体現するように意図した」と語る通り、静寂から混沌へと突き抜ける構成は、内面的な解放を音で証明しているかのようです。年内にリリース予定の次作への期待を確信させる本作は、彼女がソロ・アーティストとしての枠を超え、フルバンドと共に新たな表現の境地へと踏み出したことを告げる重要なマイルストーンとなるでしょう。


Hot Flash Heat Wave – “Freefall”

Hot Flash Heat Waveが放つ「Freefall」は、彼らがこれまで培ってきたドリーム・ポップやインディー・ロックの枠組みをさらに広げ、サイケデリックな浮遊感と現代的なポップ・センスを鮮やかに融合させた楽曲です。タイトルの通り、自由落下するような心地よい疾走感の中に、甘美なメロディと幾重にも重なるギター・レイヤーが溶け合い、リスナーを一瞬にしてノスタルジックな白昼夢へと誘います。彼ら特有のキャッチーさは健在ながら、より洗練された音作りが施されており、バンドとしての成熟を感じさせる仕上がりです。

歌詞やビジュアル面においては、自己解放や未知の世界へ飛び込む際の不安と興奮がテーマとなっており、その内省的なメッセージが瑞々しいサウンドスケープによってポジティブなエネルギーへと変換されています。サンフランシスコのシーンから登場した彼ららしい、自由でリラックスした空気感を纏いつつも、緻密に構成されたリズム隊が楽曲の骨組みをしっかりと支えており、単なるドリーミーな音楽に留まらない力強さを生み出しています。2026年のインディー・シーンにおいても、彼らの存在感を改めて強く印象付ける重要な一曲と言えるでしょう。


締め切りという「重圧」が導き出した、3日間の純粋な即興記録。Index For Working Musik が放つ、本編を凌駕する熱量を孕んだ「アンチ・フォーマリズム(反形式主義)」のドキュメント

ロンドンを拠点に活動するアンチ・フォーマリスト(反形式主義)集団、Index For Working Musikが、4月3日にTough Loveからリリースされるアルバム『Bunker Intimations II』より、最新シングル「Geordie Vision」を発表しました。本作はセカンドアルバム『Which Direction Goes The Beam』の姉妹盤であり、元々は同作の初回限定アナログ盤にのみ付属していた貴重なカセット音源が、待望の単独リリースとなります。

収録された50分に及ぶ録音は、2025年3月のわずか3日間という、極めて厳しい締め切りの重圧下で制作されました。すべての楽曲はその場で即興演奏され、即座にミックスダウンされており、作為的な加工を排した「その瞬間」の記録となっています。この切迫した状況下で生まれた生々しいエネルギーは、制作陣の一部から「本編のアルバムを凌駕している」と評されるほどの完成度を誇ります。

先行シングル「Geordie Vision」は、彼らの実験的で妥協のない姿勢を象徴する一曲です。計算された形式主義に抗い、即興が生み出す予測不能な展開と剥き出しのグルーヴが、リスナーをロンドンの地下シーンの深淵へと引き込みます。単なるおまけの音源集という枠を超え、アーティストの純粋な創造性が爆発した瞬間のドキュメントとして、今改めて世に問われる重要な作品です。

beabadoobee – All I Did Was Dream Of You (feat. The Marías)

Beabadoobeeが、The Maríasとタッグを組んだ新曲「All I Did Was Dream of You」をリリースしました。2024年のアルバム『This Is How Tomorrow Moves』以来となる本作は、トリップ・ホップとオルタナティブ・ロックの要素を融合させた、極めて雰囲気豊かなサウンドが特徴です。ギター、ドラム、シンセが織りなすレイヤーの上を、彼女の魅惑的なボーカルが漂い、「あなたとならすべてが簡単」と親密な関係性を歌い上げています。

このプロジェクトは、ボーカルのMaría Zardoyaがソロプロジェクト「Not for Radio」を始動させて以来、沈黙を守っていたThe Maríasにとっても久々の新展開となります。楽曲と共に公開されたミュージックビデオは、リトアニアのヴィリニュスで撮影。彼女の長年のコラボレーターであるJake Erlandと、現地のディレクターAboveGroundが共同監督を務め、楽曲の持つドリーミーで質感のある世界観を視覚的に表現しています。

49th & Main – “Sleepwalking”

49th & Mainが、Ninja Tune傘下のCounter Recordsより新曲「Sleepwalking」をリリースしました。デュオはこの楽曲について、関係性が以前とは変わってしまった「夢のような状態」をテーマにしており、その不確実性が恐怖であると同時に、刺激的でもあるという心境を表現していると語っています。

今作は、エネルギッシュな前作「LIVE 4 THE WEEKEND」に続く最新シングルです。彼らは昨年11月、アイルランドの自殺防止チャリティ団体Pieta Houseへの資金調達を目的に、毎日即興で楽曲を制作・公開する活動も展開。当初の目標額5,000ユーロを超える寄付を集めるなど、クリエイティブな表現を通じて社会貢献にも精力的に取り組んでいます。

ブラジルの異能 DEAFKIDS が放つ、パンクの狂気とアフロ・ラテンの脈動が激突する音の猛攻。権力の虚構を内臓的に解剖し、精神の浄化を促す「儀式的ダンス・ミュージック」の真骨頂

ブラジルのデュオDEAFKIDSが、5月29日にNeurot Recordingsからニューアルバム『CICATRIZES DO FUTURO (SCARS OF THE FUTURE)』をリリースします。2019年の『Metaprogramação』以来となる単独フルアルバムの本作は、パンクの生々しい精神と複雑な世界的リズム、そして電子音楽の実験性を融合させた、ジャンルの境界を破壊する全9曲の音の猛攻です。

先行シングル「CICATRIZES」では、アフロ・キューバン音楽のグアグアンコ・リズムとパンクのDビートが、重厚な808バスドラムやアシッド・ハウスのベースラインと交錯します。歌詞は崩壊する世界の目撃証言のようであり、集団的な妄想から目覚め、隠蔽されてきた恐ろしい現実に直面する意識の状態を表現。暴力的な世界を反映するだけでなく、音楽を通じた精神の浄化と抵抗の意志が、強烈なダンス・ミュージックとして昇華されています。

アルバムのコンセプトは、権力の虚構に毒された世界の「内臓的な診断」です。心理的・社会的支配のメカニズムが身体や精神に刻んだ消えない「痕跡(スカーズ)」をテーマに据えつつ、肉体的で儀式的なサウンドによって精神の浄化を促します。政治的・道徳的な毒性が蔓延する現代において、盗まれた過去と呪われた未来を見つめ、決して沈黙することのない記憶としての音楽を提示しています。

The Third Sound – “Remedy”

The Brian Jonestown Massacreのギタリスト、Hákon Aðalsteinsson率いるベルリン拠点のサイケデリック・ポストパンク・バンド、The Third Soundがニューシングル「Remedy」をリリースしました。本作は、最新アルバム『Most Perfect Solitude』のセッション時に録音されながらも一度はお蔵入りとなった楽曲ですが、初期作品を手がけた盟友Hallbergがミックスを担当することで、微細ながらも不可欠な要素が加わり、息を吹き返しました。

この楽曲は、深い夜の瞑想、すなわち「異なる世界が衝突する瞬間」をテーマにしています。目が覚めているのか眠っているのか、あるいは以前訪れたことがあるような気がする、次元の狭間にいるような感覚を表現しています。現在デジタル配信中の本作は、バンドのオーストラリア・ツアーをサポートする重要な一曲として、サイケデリックで没入感のある音像を提示しています。

「私の脳内をスキャンしても、これほど完璧な音は作れない」—— ブリストルの異才 Tara Clerkin Trio、集大成となる新作『Somewhere Good』を発表

ブリストルの3人組 Tara Clerkin Trio が、2023年のミニアルバム以来となる待望のニューアルバム『Somewhere Good』を2026年6月5日に World of Echo からリリースすることを発表しました。全8曲収録の本作は、デジタル、CD、LPに加え、ボーナス7インチが付属するデラックス盤も用意されています。発表に合わせて公開されたタイトル曲は、彼らが結成以来培ってきた独自の音楽性がさらに深化していることを物語っています。

本作を「例外なく、私が今最も聴きたい音楽」と絶賛するのは、ライターの Ryan Davis です。彼は、AIが個人の好みを完璧にデータ化したとしても作り得ないような、魔法のような調和がこの3人(Tara Clerkin、Sunny Joe Paradisos、Patrick Benjamin)によって実現されていると語ります。40分を超える本作では、自己敗北や都市の再開発といった沈鬱なテーマを扱いながらも、即興と緻密なアレンジに十分な「呼吸」の空間を与えることで、リスナーの想像力を強く刺激する祝祭的な響きへと昇華させています。

そのサウンドは、90年代のブリストル・サウンド(トリップホップ)の残響を感じさせつつも、アヴァン・ポップ、モダン・クラシカル、クラウト・フォークといった多種多様な要素が混在しています。ハルモニウム、管楽器、アップライト・ベース、そして Tara の繊細なメロディが織りなす催眠的なアンサンブルは、予測不能なダイナミズムと英国的な探求心に満ちています。独自の宇宙を提示し続ける彼らにとって、本作はキャリア史上最も完成された、新たな金字塔となる一作です。

激動する世界と「安静時の心拍数」が交差する場所。Sook-Yin Lee が全編 72BPM の瞑想的ビートで描き出す、崩壊するシステムへの静かなる抵抗と自己解放の記録

カナダを拠点に活動する伝説的なマルチメディア・アーティストであり映画監督のSook-Yin Leeが、ソロ・ニューアルバム『72RHR』を5月29日にHand Drawn Draculaからリリースすることを発表しました。先行シングルとして公開された「Locked Boy」は、彼女自身が作曲、演奏、録音、プロデュースのすべてを手がけた楽曲。思うように自分を表現できない精神的・肉体的な「監禁状態」からの解放をテーマにしており、孤独の中でも自らの存在価値を信じることの大切さを歌っています。

アルバムタイトルの「72RHR」は、安静時の心拍数(Resting Heart Rate)を意味しています。既存のシステムが崩壊し激動する世界の中で、穏やかな均衡を保つことの難しさに直面した彼女は、あえて全編を72BPMという瞑想的なテンポで統一するという概念的な枠組みを採用しました。この一定のリズムに身を委ねることで、現代の混乱と向き合うための独自の音楽的アプローチを試みています。

本作は、不調和と調和の間を揺れ動く感情的な起伏を、音の旅として描き出しています。Lee & Gamble Unitedが監督を務めた「Locked Boy」のミュージックビデオと共に、リスナーを深い内省と共鳴の世界へと誘います。心拍数と同期するような一定のビートの上で展開される、激動の時代に対する彼女なりの回答であり、静かながらも力強い意志が込められた一作です。

結成 25 年を経て辿り着いた、最もピュアで色彩豊かな「自己の肯定」。独創的なベース・コード奏法が紡ぐメロディが、曖昧な過去を鮮やかな未来へと繋ぎ止める 11 枚目の傑作

タルサを拠点に活動するJohnathon Fordのインストゥルメンタル・プロジェクト、Unwed Sailorが、5月8日に通算11枚目となるニューアルバム『High Remembrance』をリリースします。2019年の活動再開以降、驚異的なペースで良作を連発している彼らですが、暗い個人的な感情が投影されていた前作『Heavy Age』に対し、今作はタイトルが示す通り「記憶」や「ノスタルジー」をテーマに据え、かつてないほどの輝きと開放感に満ちたサウンドを展開しています。

先行シングル「West Coast Prism」は、オレゴン州の海岸線や森への深い愛情を反映した、色彩豊かなリフレインが印象的な楽曲です。アルバム全編を通して、70年代後半のAMラジオの粋な雰囲気やニュー・ウェイヴの躍動感、さらにはカントリー・ミュージックへのオマージュなどが織り交ぜられています。長年の協力者であるMatt PutmanやDavid Swatzellと共に、Fordが自宅で温めてきたデモに命を吹き込み、一筋縄ではいかない多層的な音響空間を構築しています。

本作の核となるのは、Fordの代名詞であるコード奏法を駆使したベース・ギターです。過去を振り返り、自分自身を含む「愛するもの」を抱きしめることを学んだ彼の精神性が、温かみのあるメロディとして結実しています。シアトルでのバンドの原点に触れる楽曲から、砂漠の夜のドライブを彷彿とさせる静謐なトラックまで、記憶という曖昧な境界線を旅するような、ワイドスクリーンで壮大なフィナーレへと続く傑作が誕生しました。

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