Helenor – “Windshield”
ブルックリンを拠点とする視覚芸術家兼シンガーソングライター、David DiAngelisのソロプロジェクト「Helenor」が、Mtn Laurel Recording Co.より新曲『Windshield』をリリースしました。本作は、パンデミック後の移住という人生の大きな転換期を経て制作され、現状打破を渇望するディアンジェリスの決意(変容)が反映されています。ヴィシャール・ナヤックやジョシュ・ボナティといった実力派の協力により、象徴的なギターとシンセのサウンドはより洗練され、都会の喧騒の中に涼やかな開放感を感じさせる仕上がりとなっています。
歌詞の面では、壊れたフロントガラスや保険詐欺といった皮肉な比喩から始まり、SNSのコメント欄や「安売りされる精神状態」といった現代的な孤独感を、Helenor特有の詩的な感性で描き出しています。大人の体に少年のままの渇望(a hunger to fix)を宿した葛藤を歌いながらも、その表現は重苦しい絶望ではなく、きらめきを伴うカタルシスへと昇華されています。自身の不完全さを「おどけた衣装(silly little outfits)」を着て笑い飛ばすような、遊び心と切実さが同居する世界観がこの楽曲の核となっています。
hackedepicciotto – Wiederbelebung
hackedepicciottoがMute Recordsから発表する新作『LICHTUNG』は、Alexander HackeとDanielle de Picciottoのデュオが14年にわたる放浪生活に終止符を打ち、ベルリン郊外に構えた新居で制作されました。タイトルの「林間の空き地(明かり)」という言葉が示す通り、世界的な激動の中で見出した個人的な避難所や内省の場を象徴する作品です。また、2025年4月にAlexander HackeがEinstürzende Neubautenを脱退して以来、初めてリリースされるフルアルバムという大きな節目でもあります。
本作の最大の特徴は、周囲の環境と言語への敬意を込め、全編ドイツ語で綴られ演奏されている点です。Alexander Hackeは、ベルリンのリヒテンラーデで過ごした少年時代の電子音楽的ルーツへと立ち返り、これまでの音楽活動で無意識に従ってきた英米的な慣習から解き放たれたアプローチを試みています。アメリカ出身のDanielle de Picciottoにとっても、第二の故郷の言語で歌うことは、ベルリン生まれのレコードとしてのアイデンティティを強固にする慈愛に満ちた表現となっています。
音楽的には、これまでのトレードマークであった反復的なドローンから一歩踏み出し、より複雑なエレクトロニクスと構造的なアレンジを追求しています。Danielle de Picciottoが長年離れていたピアノを再開し、新たな表現を模索した一方で、Alexander Hackeは緻密で実験的な電子音のテクスチャーを構築しました。Phewとの共作や自叙伝の出版といった2025年の精力的な活動を経て、デュオが辿り着いた新たな音楽的到達点と言える一作です。
打楽器的な構造から解放された音の物理学:ガーナへの旅を経てAho Ssanが到達した、カオスと静寂が共生する抽象的音響空間
SubtextとIci, d’ailleursから発表されたAho Ssanの3rd LP『The Sun Turned Black』は、パリを拠点とするNiamké Désiréが、自身の魂の深淵とガーナへの旅で得たインスピレーションを形にした作品です。前作までの厳格な構造から離れ、音そのものが持つ生の物理性や「圧倒的で壮大なノイズの組織化」を追求した本作は、ディアスポラとして生きる自身のアイデンティティや、故郷と生誕地の間に生じる歴史的・個人的な緊張感を反映しています。
アルバムの骨格を成すのは、バイオリニストのASIAをフィーチャーした4部構成の組曲「100 Suns」です。先行シングルとしてリリースされた「100 Suns, Pt. III」は、このプロジェクトが持つ「不安定さ」や「重心の欠如」を象徴する重要なピースとなっています。Désiréは打楽器的な要素を排し、シンフォニックなシンセサイザーと耳を刺すような高域の干渉音、地を這う重低音を対比させることで、単なるアンビエントやノイズという枠組みを超えた、変容し続ける音像を作り上げました。
本作における「暗転」や「崩壊」は、決して終わりを意味するものではなく、新たな知覚の始まりを告げるプロセスとして機能しています。ノイズが収まる瞬間に現れる子守唄のようなチャイムや、崩壊の最中にのみ姿を現す微細なディテールは、聴き手に新しい聴取のあり方を提示します。「100 Suns, Pt. III」から続くこの旅路は、目的地に到達することよりも、予測不能なカオスの中に美しさを見出す体験そのものを優先しており、現代電子音楽における極めてパーソナルで独創的な到達点となっています。
Classic Trucks – “Born Naked”
ブリストルのBreakfast Recordsから本日リリースされたClassic Trucksの新曲「Born Naked」は、自己発見と挑戦をテーマにしたJarman(Langkamerのドラマー/ヴォーカリスト)のソロプロジェクトです。彼はドラマーの枠を超え、Gumtreeで手に入れたわずか10ポンドのギターを2年かけて独学で習得し、表現の幅を広げるというDIY精神あふれる試みからこの楽曲を完成させました。
音楽的には、Neutral Milk HotelやBill Callahan(Smog)、Songs: Ohia、SparklehorseといったUSインディーやオルタナ・カントリーの伝説的なアーティストたちを主要な影響源としています。こうしたフォークやポップの素養に、彼自身のルーツであるヒップホップのエッセンスを巧妙に織り交ぜることで、独創的で多層的なサウンドスケープを構築しています。
Man Man and Fingers & The Outlaws – “So It Goes”
もともとは2020年のゲーム『Cyberpunk 2077』内にて、Fingers and the Outlawsという名義でしか聴くことのできなかった「So It Goes」。公式リリースがないまま数年が経過しましたが、その間にYouTubeやSoundCloudでのファンによるアップロードは数百万再生を記録し、多くのカバーバージョンや公式リリースの是非を巡る憶測が飛び交うなど、プレイヤーの間で絶大な人気を誇る一曲となりました。
そしてついに、心に砂埃が舞うようなこのバラードを正式に聴ける時が来ました。長らく待ち望まれていたこの楽曲は、ゲームの世界観を越えて、ついに公式な音源として皆さんのもとへ届けられます。
Career Woman – “Game Of Pricks”
Career Woman が、Guided by Voices の名曲「Game of Pricks」のカバーをリリースしました。長年温めてきたというこの特別な楽曲は、彼女にとって思い入れの深い一曲であり、プロデュースには miki が、ミュージックビデオの制作には orion が協力しています。オリジナルの持つ疾走感とエモーショナルなメロディを、彼女独自の感性で再解釈した仕上がりとなっています。
本作は、Career Woman らしい親密な空気感と、DIY精神に溢れた映像表現が融合したプロジェクトです。制作を支えた仲間たちへの感謝と共に送り出されたこのカバーは、シンプルながらも楽曲の持つ核心を突く力強さを備えています。アーティストとしてのルーツを大切にしながら、新たな息吹を吹き込んだ、ファンにとっても待望のリリースと言えるでしょう。
ダブリン発、90年代グランジの再解釈──遊び心とDIY精神が火を灯す、Delivery Serviceの瑞々しいデビューEP『five songs』
ダブリンを拠点とするインディ・ロック・カルテット、Delivery ServiceのデビューEP『five songs』は、90年代グランジやライオット・ガール運動への情熱から生まれたDIY精神溢れる作品です。女性の視点で綴られる人生や愛への葛藤を、幾層にも重なるヴォーカル・ハーモニーや遊び心のあるシンセ、歪んだギターで表現しており、バンドの「楽しむために演奏する」という純粋なエトスが反映されています。
また、彼らは本作に続いてセカンド・シングル「truancy」もリリースしました。初期衝動を大切にした瑞々しいサウンドスケープを展開しており、アイルランドのインディ・シーンにおいて、自由で遊び心に満ちた独自の存在感を放っています。
Roomer – “Written By”
ベルリンを拠点に活動するドリーム・ロック・トリオ Roomer が、2025年のデビュー作『Leaving It All to Chance』以来となる新曲「Written By」をリリースしました。リハーサルルームとスタジオの両方で録音された本作は、これまでの彼らの持ち味である生々しく誠実な響きを保ちつつも、よりプロダクションに重きを置いた新しいサウンドスケープを提示しています。特筆すべきは、楽曲の核となるボーカルが完全な一発撮りの即興である点で、歌詞もメロディもその場で紡ぎ出された瞬間の鮮烈さがそのまま封じ込められています。
歌詞の世界観は象徴主義やドラマチックなイメージを用いており、まるで演劇や、そこから目覚めようともがく悪夢のような独特の空気感を漂わせています。ボーカルの Ronja が「絶えず変化し続け、どこにも完全には留まらない自分自身」について言及している通り、派手さはないものの、年を重ねるごとに気づかぬうちに蓄積していく変化のような、静かで力強い持続性が楽曲全体を貫いています。初期衝動の明快さを大切に残した、彼らの新たな章を告げる一曲です。
TV People – “Concrete Cage”
TV Peopleの「Concrete Cage」は、マーティン・スコセッシ監督の映画『アフター・アワーズ』からインスピレーションを得た一曲です。深夜の都市を彷徨うような、シュールな緊張感と夜更け特有の不安、そして歪んだ可能性が楽曲全体に流れています。落ち着きのない性急な勢いと催眠的な激しさが、真夜中の街を大きく目を見開いたまま突き進むような独特の感覚を再現しています。
本作は、自分自身の思考の中に閉じ込められながらも、一筋の逃避行や人との繋がり、そして光を追い求める葛藤を描いています。抑圧された感情が解き放たれる瞬間の力強さは圧巻で、リスナーを圧倒するような解放感を備えています。都会の孤独と、その先にある救いへの渇望を鮮烈なサウンドスケープで表現した、エモーショナルなポストパンク・ナンバーです。
Y U QT & Jem Cooke – “Call My Name”
Darryl ReidとJames Cooperの親友同士からなるイギリスのデュオ、Y U QTが、待望のニューシングル「Call My Name」をNinja Tune傘下のTechnicolourから正式にリリースしました。UKガラージ再燃の旗手として注目を集める彼らの本作は、自らのDJセットで数ヶ月にわたりプレイされ、最も問い合わせ(ID)の多かった一曲です。Warehouse ProjectやBoiler Room Melbourneといった世界各地の主要なクラブやフェスティバルで既に熱狂を巻き起こしており、Faster Horsesら著名なDJたちからも厚い支持を得ています。
ボーカルには、2026年1月のSpotify「Songwriter of the Month」にも選出されたロンドン出身のシンガーソングライター、Jem Cookeを起用しています。CamelPhatやJax Jonesとの共演で知られる彼女のソウルフルな歌声が、Y U QT特有のエネルギーに満ちたプロダクションに深い重みを与えています。デュオが自分たちのビジョンに完璧に合致する瞬間を待って温めてきたというこの楽曲は、現在のダンスミュージック・シーンにおける彼らの確固たる地位を証明する仕上がりとなっています。
