2023年に日本で公開されたものから選びました。
15. モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン – Mona Lisa and the Blood Moon
少女の名前は、モナ・リザ。だけど、決して微笑まない。12年もの間、精神病院に隔離されていたが、赤い満月の夜、突如“他人を操る”特殊能力に目覚める。自由と冒険を求めて施設から逃げ出したモナ・リザが辿り着いたのは、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街ニューオーリンズ。そこでワケありすぎる人生を送ってきた様々な人々と出会ったモナ・リザは、自らのパワーを発揮し始める。いったい彼女は何者なのか。まるで月に導かれるように、モナ・リザが切り開く新たな世界とは──？ オフィシャルより
実に理想的な生きざま。彼女は至って冷静沈着、何も変わっていないが、関わった人々は感情が揺さぶられ、動揺し、破壊され、ときに胸が踊る。みんな彼女の虜。
14. Pearl パール – Pearl
スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが── オフィシャルより
こちらも魅力しかない主演に惹かれっぱなし。3部作その2は前後をつなぐ補完作。秘密事項はここから始まった。全てがうまくいくはずだったのに、歯車が狂い出して誰も彼女を止めれない。
13. 理想郷 – As bestas
フランス人夫婦アントワーヌとオルガはスローライフに夢を抱き、緑豊かな山岳地帯スペイン・ガリシア地方の小さな村に移住する。しかし村人たちは慢性的な貧困問題を抱え、穏やかとは言えない生活を送っていた。隣人の兄弟は新参者の夫婦を嫌い、彼らへの嫌がらせをエスカレートさせていく。そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトをめぐって夫婦と村人の意見が対立する── オフィシャルより
田舎も田舎、かなりの辺境。そんなところへわざわざ行っちゃうかねとは思いつつも、どうせならとことんやってみようってことか。理解者はもいても、それを遥かに超えるよそ者不要論兄弟に追い込まれる。帰属意識よりも自己確認。最後は意地との戦い、だが得たものより尊いものを失った。
12. ヨーロッパ新世紀 – R.M.N.
トランシルヴァニア地方の村。出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こしたマティアスが、この地に戻ってくる。しかし妻との関係は冷めきっており、森でのある事をきっかけに口がきけなくなった息子、衰弱した父への接し方にも迷う彼は、元恋人のシーラに心の安らぎを求める。ところがシーラが責任者を務める地元のパン工場が、アジアからの外国人労働者を迎え入れたことをきっかけに、よそ者を異端視した村人たちとの間に不穏な空気が流れ出す。やがて、そのささいな諍いは村全体を揺るがす激しい対立へと発展し、マティアスやその家族、シーラの人生をも一変させていく── オフィシャルより
こちらは田舎帰還に関わらず、やはりほぼ歓迎者はいない。受け入れられないのは彼に留まらず、街を挙げてのレイシスト祭り。しかし、このような作品があることは、時代が変わった証拠か。
11. ソフト／クワイエット – Soft & Quiet
とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成する。教会の談話室で行われた第１回の会合に集まったのは、主催者のエミリーを含む６人の女性。多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする６人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。やがて彼女たちはエミリーの自宅で二次会を行うことにするが、途中立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹との激しい口論が勃発。腹の虫が治まらないエミリーらは、悪戯半分で姉妹の家を荒らすことを計画する。しかし、それは取り返しのつかない理不尽でおぞましい犯罪の始まりだった── オフィシャルより
こちらはレイシスト都会版。思想が集団化し、エスカーレーションの果ては暴力のみ。歴史、現代、そして未来も、どうにも解決とはならない問題だ。小学校の恩師の言葉が蘇る。「差別は言葉にするかしないかだ」
10. コンパートメント No.6 – Compartment No. 6
モスクワに留学中のフィンランド人学生ラウラ。彼女の、古代のペトログリフ（岩面彫刻）を見に行く旅は、恋人にドタキャンされ、急遽一人旅に。そんな彼女が寝台列車6号コンパートメントに乗り合わせたのは、モスクワのインテリたちとは正反対の、粗野なロシア人労働者リョーハ。最悪の出会いから始まった、二人の長い旅の行方は── オフィシャルより
大事にしていたビデオカメラを騙し取られてしまい、想いではもう見ることができない。よくライブ中にスマホで動画撮影する光景を見る。記録はできても、その瞬間を本当に楽しめているのだろうか。とは、監督の言葉。
9. 大いなる自由 – Great Freedom
第二次世界大戦後のドイツ、男性同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンスは自身の性的指向を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトールは「175条違反者」である彼を嫌悪し遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所から直接刑務所に送られたことを知る。己を曲げず何度も懲罰房に入れられる「頑固者」ハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知しているヴィクトール。反発から始まった二人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく── オフィシャルより
時系列が場面によって入れ替わるので、登場人物を早く理解するがポイント。その壁を超えると待っているのは、抵抗と繰り返される非情。しかし時間が互いを理解し、理解しがたい絆で結ばれる。
8. ファースト・カウ – First Cow
物語の舞台は1820年代、西部開拓時代のオレゴン。アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルー。
共に成功を夢見る2人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。
それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛からミルクを盗み、
ドーナツで一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった── オフィシャルより
ギャンブルのように、あともう少しが絶体絶命な状況へ追い込まれる。のめり込んだ理由は一攫千金ではなく友情。極限の状況での出会いは強く暖かい絆を生んだ。オープニングの伏線回収に気付いた頃から、胸が苦しくなる。
7. ザ・ホエール – The Whale
自宅のソファからほとんど動かず、引きこもり生活を送り続けた結果、重度の肥満症となったチャーリー。自らの死期を悟り、疎遠だった娘との絆を取り戻そうとする。さらに、長年押し込めてきたトラウマと向き合うことを決意。心えぐる喪失と絶望、複雑で多くの重荷を抱え断絶せざるをえなかった彼が、心の奥底で信じ続けた願いとは── オフィシャルより
もう諦めて忘れていたはずなのに、ゆっくりと雪解けが始まる。しかし遅すぎた、時間がない。もう戻すことができな状況にもがき苦しみ自暴自棄になるが、それをも受け止める家族以上の存在がいた。諦めることも受け入れられるって凄い。どうしたらそんな人間になれるのだろう。
6. トリとロキタ – Tori and Lokita
地中海を渡りヨーロッパへやってきた人々が大勢ベルギーに暮らしている。トリとロキタも同様にベルギーのリエージュへやってきた。トリはまだ子供だがしっかり者。十代後半のロキタは祖国にいる家族のため、ドラッグの運び屋をして金を稼いでいる。偽りの姉弟としてこの街で生きるふたりは、どんなときも一緒だ。年上のロキタは社会からトリを守り、トリはときに不安定になるロキタを支える。偽造ビザを手に入れ、正規の仕事に就くために、ロキタはさらに危険な闇組織の仕事を始める……。他に頼るもののないふたりの温かく強固な絆と、それを断ち切らんとする冷たい世界。彼らを追い詰めるのは麻薬や闇組織なのか、それとも── オフィシャルより
家族のために国を離れやってきた。それは姉弟が望んんだことではない。でもやり遂げなけばならない状況が闇世界へと足を踏み入れる。辛いがこれが現実なのか。ロキタの名を呼び探すトリの声が耳から離れない。まだまだ世の中は間違いだらけだ。
5. CLOSE クロース – Close
13歳のレオとレミは、24時間ともに過ごす大親友。中学校に入学した初日、親密すぎるあまりクラスメイトにからかわれたレオは、レミへの接し方に戸惑い、次第にそっけない態度をとってしまう。気まずい雰囲気のなか、二人は些細なことで大喧嘩に。そんなある日、心の距離を置いたままのレオに、レミとの突然の別れが訪れる。季節は移り変わるも、喪失感を抱え罪の意識に苛まれるレオは、自分だけが知る“真実”を誰にも言えずにいた── オフィシャルより
こんなことになるなんて夢にも思わなかっただろう。悪気はなかったかもしれないが、この年代のちょっとした言葉は時に残酷で悲劇を巻き起こす。こんなあまりにも重い事実を背負うのは大人でもしんどい。でも乗り越えるしかないっていう。
4. いつかの君にもわかること – Nowhere Special
窓拭き清掃員として働く33歳のジョンは若くして不治の病を患い、残された余命はあとわずか。シングルファーザーとして男手ひとつで4歳のマイケルを育ててきた彼は、養子縁組の手続きを行い、息子の“新しい親”を探し始める。理想の家族を求め、何組もの“家族候補”と面会をするが、人生最大の決断を前に進むべき道を見失ってしまう。そんな彼は、献身的なソーシャルワーカーとも出会い、自分の不甲斐なさに押しつぶされそうになりながらも、息子にとって最良の未来を選択しようとするが── オフィシャルより
里親探しの極み。候補者が続々と登場するが、どいつもこいつも・・。それでも残された時間は少ない、極限な状況でも最後に父親は真っ当な判断をした。今年一番の、涙腺崩壊。
3. シック・オブ・マイセルフ – Sick of Myself
シグネの人生は行き詰まっていた。長年、競争関係にあった恋人のトーマスがアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは、自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出す。薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき── オフィシャルより
どうにかして注目を集めたい、嘘の暴走が止まらない。彼女のような重症ではないにしても、SNSなどを見れば似たような状況である。これまでの自分から解放されるまでに失った代償は大きい。とはいえ、ぶっちぎる猟奇的な振る舞いは笑えて爽快。
2. 帰れない山 – The Eight Mountains
都会育ちで繊細な少年ピエトロは、山を愛する両親と休暇を過ごしていた山麓の小さな村で、同い年で牛飼いをする、 野性味たっぷりのブルーノに出会う。まるで対照的な二人だったが、大自然の中を駆け回り、濃密な時間を過ごし、たちまち親交を深めてゆく。やがて思春期のピエトロは父親に反抗し、家族や山からも距離を置いてしまう。時は流れ、 父の悲報を受け、村に戻ったピエトロは、ブルーノと再会を果たし── オフィシャルより
一方が良ければもう一方はイマイチ。時としてその状況は逆転し、互いがハッピーってことはない。そのほかも、親交と疎遠、都会と田舎、執着と野心、などなど二項対立図式で物事が進んでいく。どちらの言い分もわかるし、解らないし、でもどちらの生き方も正しいのだろう。
1. aftersun アフターサン – Aftersun
思春期真っただ中、11歳のソフィは、離れて暮らす若き父・カラムとトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィは、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく── オフィシャルより
VHSのぼやけた映像のように、ずっと切なさが支配し、胸が締め付けられる。父と娘の微妙な距離感。もっとうまくやるつもりだったのに。でも一緒に過ごしたあの時の出来事は、彼女にとってはとってもおおっきな日々だった。ふと自分にとってのターニングポイントや、チェンジャーは誰であったのか考えている。ひとつ確実に言えるのは、13歳の大晦日。
