現代ジャズの最前線から、ジャンルの境界を消失させる未知の音響へ。Nonesuch Recordsから登場する、AmbroseとMaryによる不屈の創造の記録

Ambrose AkinmusireとMary Halvorsonという、現代音楽シーンを牽引する二人の独創的な作曲家・演奏家によるデュオ・アルバム『Slo-Mo Neon Luminate Hoverings』が、2026年6月12日にNonesuch Recordsからリリースされます。2009年からの長きにわたる友情と、過去2回の録音の試行錯誤を経て完成した本作は、ニューヨークの名門クラブ「The Stone」での公演直後に録音されました。互いの音楽性への深い信頼と、「何もする必要がなく、同時に何でもできる」という稀有な共鳴関係が、全9曲の構成(各自の新曲4曲+共作1曲)の中に結実しています。

本作の大きな聴きどころは、Maryから譲り受けたエフェクト・ペダル「Line 6」をAmbroseが初めて導入している点です。Ambroseはペダルを単なる機材ではなく、独立した「もう一人のミュージシャン」として捉え、機械が生成する残響やディレイに即興で反応する手法を採用しました。長年エフェクターを巧みに操ってきたMaryをして「手にした瞬間から独自の音を生み出し、ボーカライズ(発声)を交えた驚きの表現を見せた」と言わしめるほど、直感的かつ独創的なアンサンブルが展開されています。

Ambrose Akinmusireは、2025年度のDownBeat誌批評家投票でトランペッター・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど高い評価を得ながらも、ジャズの枠に留まらず、クラシックやヒップホップ、そして精神的な価値を重んじた表現を追求し続けています。本作においても、黒人音楽の革新の系譜を継承しつつ、ジャンルの制限を設けない自由なアプローチを提示。「誤解を恐れず創造を信じる」という彼の揺るぎない姿勢が、Maryの鋭利なギターワークと交わることで、現代の音楽地図を塗り替える豊潤なエモーショナル・ランドスケープを描き出しています。


The NotwistのMicha Acherが自身の名曲群を再構築。室内楽とエレクトロニクスが織りなす、親密で幻想的な「音楽的降霊術」

The Notwistのメンバーとして知られるMicha Acherが、ソロプロジェクトHenry and the Ghost名義でニューアルバム『Henry And The Ghosts Songbook』を6月12日にリリースします。本作は、彼が過去にTied & Tickled TrioやMs. John Soda、The Notwistなどのプロジェクトに提供した楽曲を、室内楽の編成で再解釈したセルフカヴァー集です。自身の居間で2日間にわたり行われた録音セッションは、まさに過去の楽曲を呼び戻す「音楽的な降霊術(セアンス)」のような趣で行われました。

アルバムには、バスクラリネット、ファゴット、バンジョー、スーザフォン、そしてMarkus Romによる幽霊のようなエレクトロニクスが導入され、既存の楽曲に新たな命を吹き込んでいます。先行シングル「LOOP D」を含む全15曲は、ポップ、フォーク、ジャズ、クラシックの要素が軽やかに交錯。映画的な情景を想起させる「Johanna」や、The Velvet Undergroundへのオマージュを感じさせる「All Tomorrow’s Past」など、メランコリックでありながらも親密で温かみのあるサウンドスケープが広がっています。

文化理論家Mark Fisherが提唱した「不気味なもの(eerie)」の概念を引用しつつも、本作の楽曲たちは決して恐ろしいものではなく、どこか懐かしい「ドッペルゲンガー」のように聴き手に寄り添います。1998年の名盤『Shrink』収録曲を再構築した「Nordlead」で締めくくられるこの「Songbook」は、90年代から現在に至るまでMicha Acherが切り拓いてきた音楽世界の進化を証明すると同時に、どの音符にも彼の確かな署名が刻まれた集大成的な一作となっています。


Mark Guilianaら現代ジャズの精鋭たちと描く、即興と信頼の記録——先行シングル「Arches」から紐解く、Sharada Shashidharの飽くなき実験精神

シンガーソングライター Sharada Shashidhar が、Colorfield Recordsより待望のニューアルバム『A Foot on the Ground』を2026年6月3日にリリースすることを発表し、先行シングル「Arches」を公開しました。ロサンゼルスのLucy’s Meat Marketで2年間にわたり録音された本作は、彼女がこれまでに触れたことのない楽器やツールを駆使し、自身の表現を大きく拡張させた実験的な作品となっています。

制作過程では、プロデューサーの Pete Min との対話を通じて、これまでの完璧主義をあえて手放すアプローチが取られました。一見「不自然」や「恐ろしい」と感じるような瞬間にも音楽的な価値を見出し、それらをコラージュや彫刻のように丁寧に繋ぎ合わせることで、嘘偽りのない完成形へと昇華。特定のスタイルに固執せず、自身のアイデアを多角的に表現することに重きを置いています。

アルバムには、Caleb Buchanan や Timothy Angulo といった長年の友人に加え、現代ジャズ界の重要人物である Mark Guiliana や Benny Bock も参加しています。明確なロードマップをあえて作らず、その日に湧き上がったインスピレーションをスタジオで共有しながら制作された本作は、多くの才能が交差することで生まれたオーガニックで躍動感あふれる記録となっています。


「クラブで泣きながら腰を振る、あまりに切実で滑稽な私」—— duendita、初の完全セルフプロデュース作『existential thottie』を始動

ベルリンを拠点に活動するクイーンズ出身のアーティスト duendita が、最新アルバム『existential thottie』のリリースを発表し、先行シングル「super sad!」を公開しました。昨年の意欲作『a strong desire to survive』に続く本作は、彼女自身が「日記のように個人的な内容で、最初は公開するのが怖かった」と語るほど内省的なプロジェクトです。静謐で煌びやかな新曲「super sad!」は、「クラブにいるけど超悲しい、だから腰を振る」というユーモアを交え、複雑な感情の断面を鮮明に切り取っています。

本作の大きな特徴は、duendita が初めて「頭から爪先まで」完全にセルフプロデュースを手がけた点にあります。深夜や早朝に彼女が一人 Digitakt(リズムマシン)に向き合い、純粋な自己表現として紡ぎ出したデモが核となっています。その後、信頼するバンド仲間やコラボレーターを招き入れ、ライブでの経験を録音に反映させることで、ハープや生ドラム、ベース、鍵盤といった豊かな響きが加えられ、親密さとダイナミズムが共存するサウンドへと進化を遂げました。

アルバム全体を通じて描かれるのは、失恋やメンタルヘルス・システムとの格闘、あるいは「ヘテロなシチュエーションシップ(曖昧な関係)」での諍いといった切実な痛みから、安全で熱いセックス、避妊にまで及ぶ、驚くほど正直で「ジグリー(揺れ動く)」な物語です。滑稽さと誠実さが同居する楽曲群は、最終的に「癒やしに全力を尽くす」という決意の約束へと着地します。弱さをさらけ出しながらも生を肯定する、duendita の真骨頂といえる一作です。


Laura Misch – “Kairos”, “Scrolls”

Laura Mischが、近日発売予定のセカンドアルバム『Lithic』から、最新プレビューとなる新曲「Kairos」と「Scrolls」をリリースしました。先月公開されたリードシングル「Echoes」に続くこれらの楽曲は、コーンウォールの古い粘板岩採石場や、エーゲ海に浮かぶイドラ島で録音されました。特筆すべきは、180年の歴史を持つ石琴「ミュージカル・ストーンズ・オブ・スキッドゥ(Musical Stones of Skiddaw)」がフィーチャーされており、地質学的な時間軸を感じさせる独特の響きを湛えています。

新曲「Kairos」は、アルバムの核心的なテーマである「時間」と、世界がいかに長い年月をかけて形作られていくかを捉えています。地質学から着想を得た一連の楽曲群をさらに発展させ、音そのものを「形を変えうる古代の素材」として表現しているのが特徴です。悠久の時を経て形成された岩石の響きと現代的な感性を融合させることで、聴く者を地球の鼓動を感じさせるような深い思索へと誘います。


Radioheadの重圧を脱ぎ捨て、一人の『新人ソングライター』として向き合う真実——2027年のバンド再始動を前に、Ed O’Brienが『Blue Morpho』に封じ込めた不変の精神性

Radioheadのギタリスト、Ed O’Brienが、EOB名義の前作から約6年ぶりとなるソロ第2作『Blue Morpho』を本名名義でリリースすることを発表しました。パンデミック初期の深い鬱状態や「中年の危機」を経て制作された本作は、ウェールズの豊かな自然とロンドンの神聖なスタジオで録音され、自身の過去のトラウマや内面的な葛藤と向き合う癒やしのプロセスそのものとなっています。先行シングルであるタイトル曲には、Paul EpworthやShabaka Hutchingsに加え、RadioheadのPhilip Selwayら豪華な顔ぶれが参加しており、精緻かつ壮大なアンサンブルを聴かせてくれます。

本作の背景には、かつてRadioheadとしての活動に違和感を抱き、バンドとの距離感に悩んだ時期を経て、現在の自分を肯定できるようになった彼の精神的な成熟があります。特にウェールズの静かな環境で自然と触れ合い、Wim Hofのメソッドなどを通じて心身を整えた経験が、音楽に深い静謐さと再生のエネルギーを与えています。かつて「新品同様(ミント・コンディション)」であることに固執し、変化を恐れていた彼は、今や「暗闇を通り抜けることでしか光は見つからない」という信念のもと、未完成な自分や偶然の出会いを受け入れる強さを手に入れました。

また、インタビューではRadioheadの今後の活動についても言及しており、2026年の公演予定はないものの、2027年以降に北米やアジアを含む世界各地で年間20公演ずつを巡る計画があることを明かしました。現在の彼は、世界的なバンドの一員としての責任感と、一人の新人ソングライターとしての探求心を両立させています。新作『Blue Morpho』は、単なるソロプロジェクトの枠を超え、人生の暗闇から抜け出し、再び歩み始めた一人の音楽家の誠実なドキュメントと言えるでしょう。


「私の脳内をスキャンしても、これほど完璧な音は作れない」—— ブリストルの異才 Tara Clerkin Trio、集大成となる新作『Somewhere Good』を発表

ブリストルの3人組 Tara Clerkin Trio が、2023年のミニアルバム以来となる待望のニューアルバム『Somewhere Good』を2026年6月5日に World of Echo からリリースすることを発表しました。全8曲収録の本作は、デジタル、CD、LPに加え、ボーナス7インチが付属するデラックス盤も用意されています。発表に合わせて公開されたタイトル曲は、彼らが結成以来培ってきた独自の音楽性がさらに深化していることを物語っています。

本作を「例外なく、私が今最も聴きたい音楽」と絶賛するのは、ライターの Ryan Davis です。彼は、AIが個人の好みを完璧にデータ化したとしても作り得ないような、魔法のような調和がこの3人(Tara Clerkin、Sunny Joe Paradisos、Patrick Benjamin)によって実現されていると語ります。40分を超える本作では、自己敗北や都市の再開発といった沈鬱なテーマを扱いながらも、即興と緻密なアレンジに十分な「呼吸」の空間を与えることで、リスナーの想像力を強く刺激する祝祭的な響きへと昇華させています。

そのサウンドは、90年代のブリストル・サウンド(トリップホップ)の残響を感じさせつつも、アヴァン・ポップ、モダン・クラシカル、クラウト・フォークといった多種多様な要素が混在しています。ハルモニウム、管楽器、アップライト・ベース、そして Tara の繊細なメロディが織りなす催眠的なアンサンブルは、予測不能なダイナミズムと英国的な探求心に満ちています。独自の宇宙を提示し続ける彼らにとって、本作はキャリア史上最も完成された、新たな金字塔となる一作です。

Mei Semones – “Tooth Fairy” (feat. John Roseboro)

シンガーソングライターのMei Semonesが、ブルックリンを拠点とするJohn Roseboroをフィーチャリングに迎えたニューシングル「Tooth Fairy」をリリースしました。本作は、4月10日にBayonet Recordsからリリースされる最新作『Kurage』からの先行カット。彼女の代名詞である日本語と英語が交錯する歌詞、そしてボサノヴァの影響を感じさせる軽快なギターワークが、Roseboroの温かな歌声と見事に溶け合っています。

本作は、日常の断片を甘美なポップ・ソングへと昇華させる彼女の卓越したセンスが光る一曲です。洗練されたジャズのコード進行にストリングスが重なり、初夏の木漏れ日のような心地よさと、どこかノスタルジックな切なさを同居させています。親密なデュエット形式をとることで、彼女の音楽的ルーツであるブラジル音楽への敬愛が、より深く瑞々しい形で表現されています。

Nostalgia 77 – “Bye Bye”

Nostalgia 77(Benedic Lamdin)による「Bye Bye」は、ジャズ、フォーク、ブルースが静かに溶け合った、内省的でスモーキーな傑作です。カサンドラ・ウィルソンのような深みを持つジェシカ・ラーリンのヴォーカルが、別れの寂しさと淡々とした諦念を表現しており、ミニマルなギターの旋律と抑制されたリズムが、聴き手を深夜の静寂へと誘います。

この楽曲の真骨頂は、単なる悲劇ではなく、静かな自立と再生の予感を感じさせる点にあります。過剰な装飾を削ぎ落としたアコースティックな響きは、過去を清算して一歩踏み出す際の「空虚さと自由」を象徴しており、聴き終わった後には、冷たい夜風に吹かれた時のような、不思議と澄み渡った余韻が心に残ります。

IDMの伝説Squarepusherがオーケストラに挑む:新作『Kammerkonzert』で描く、緻密な作曲術とレイヴ精神の衝突

エセックスを拠点とする多作なプロデューサーであり、IDM界のレジェンドとして知られる Squarepusher こと Tom Jenkinson が、ニューアルバム『Kammerkonzert』を4月にリリースすることを発表しました。本作はオーケストラ音楽への本格的な進出を掲げた作品であり、先行シングル「K2 Central」では、彼が作曲家としての役割を見事に果たしている様子を聴くことができます。

ストリングスを導入しながらも、Tom Jenkinson は本作が自身のルーツであるハードコア・レイヴに忠実であることを強調しています。「音楽において違法なアイデアなど存在しない」とプレスリリースで語る彼は、ブレイクビーツと弦楽四重奏という異色の組み合わせに挑戦。両者の欠点を引き出すという落とし穴を回避し、単なる形式的な融合ではない真の音楽的実験を追求しました。

先行シングル「K2 Central」では、アコースティックな弦楽器の響きと激しいブレイクビーツが真っ向からぶつかり合う、スリリングなサウンドを体験できます。このアルバムは、ジャンルを横断するプロジェクトに伴うリスクに真っ向から立ち向かう姿勢を示しており、遊び心に溢れながらも、Squarepusher らしい妥協のない芸術的なステートメントとなっています。

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