Michael Cormier-O’Leary、家族の光と影を描く新作EP『Proof Enough』を発表。3部合唱で綴る「現実逃避の物語」

フィラデルフィアのアンサンブルHourの作曲や、Friendship、2nd Grade、そして金延幸子といった名だたるアーティストのドラマーとしても活躍するMichael Cormier-O’Leary。多才な彼がシンガーソングライターとしてのソロ活動を再開し、2023年のアルバムに続く新作EP『Proof Enough』を発表しました。本作は自身の伝記とフィクションを織り交ぜた全6章の「家族ドラマ」として構成されており、家庭という親密な空間に潜む複雑な力学を浮き彫りにしています。

先行シングルとして公開された「Marilyn」は、伝説的なフォーク・グループThe Rochesからインスピレーションを得た楽曲です。Cormier-O’Leary自身の声を重ねた2つのトラックに、22º Haloなどで活動するHeeyoon Wonの声を加えた3部合唱が特徴的なこの曲は、フォーク・ミュージックの伝統的な美しさと現代的な実験性を同居させています。楽曲の中心にあるのは、家庭内の不協和音から逃れるために、クレヨンの絵の世界へと没入する5歳の少女マリリンの物語です。

曲の後半(アウトロ)では、2つのメロディが半音階で行き来しながら振動するような構成が取られており、それは「調和を欠いた家族」や「ひどく不運な一日」を音楽的に象徴しています。両親もまた現実逃避を望みながらそれが叶わないという、世代間の葛藤や沈黙が重層的なハーモニーを通じて描かれています。多作な彼が、ドラムスティックをペンとギターに持ち替え、家族という普遍的なテーマに鋭く、かつ温かい眼差しを向けた一作です。

Julien Bakerも参加。The Saddest Landscape新作『Alone With Heaven』が提示する「一瞬の救済」

ボストンのポストハードコア・バンド、The Saddest Landscapeが、10年以上の沈黙を破りニューアルバム『Alone With Heaven』を4月にリリースします。本作はアナログ録音への強いこだわりを持って制作され、昨年惜しまれつつ世を去ったSteve Albiniと、名匠Jack Shirleyがエンジニアリングを担当。さらにJulien Baker、Jeremy Bolm(Touché Amoré)、Evan Weiss(Into It. Over It.)といったエモ/パンクシーンの重要人物たちがゲスト参加する、破格のスケールを誇る復活作となりました。

先行シングルとして公開された「From Home They Run」は、激しい疾走感の中に繊細なメロディが息づく、彼ら真骨頂の激情サウンドです。ボーカルのAndy Maddoxは、同曲の中盤セクションについて「絶え間ない不安や抑うつを抱えて生きる者が、稀に感じる一瞬の解放感」を表現したと語っています。また、同時公開された「Hexes」はさらに強烈な熱量を放っており、活動休止期間を経てなお、彼らのエモーションがかつてないほど研ぎ澄まされていることを証明しています。

ビジュアル面においても、The CureやNine Inch Nailsを手がけてきたDaniel Dangerがアートワークを担当し、作品の持つ深遠な世界観を補完しています。楽曲とインストゥルメンタルが交錯する2枚組の構成、そして名だたるコントリビューターたちの参加。これらは単なる話題作りではなく、記憶、忍耐、そして希望を巡る壮大な物語を描き出すための必然的な布陣と言えるでしょう。

Fear of MenのJessica Weiss、新プロジェクト「New German Cinema」始動。ファスビンダーに捧ぐ暗黒のポップ宇宙

Fear of Menのフロントパーソン、Jessica Weissが、ソロプロジェクトNew German Cinemaとしてデビューアルバム『Pain Will Polish Me』をリリースすることを発表しました。バンドとしては2016年のアルバム以来沈黙が続いていましたが、今作は彼女が5年の歳月をかけ、ロンドンとロサンゼルスを拠点にAlex DeGrootと共同制作した野心作です。映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーへの瞑想をテーマに、ポップミュージックとアートハウス映画の感性を融合させた内省的な世界観を提示しています。

先行シングル「My Mistake」は、MerchandiseのCarson Coxとのデュエット曲です。当初はFear of MenのプロデュースをCoxが依頼されたことがきっかけでしたが、結果として全く異なるスタイルの「真のコラボレーション」へと発展しました。この楽曲はイタロ・ディスコの実験から派生したゴシック・クラブ・アンセムであり、愛における献身、破壊、そして解放というアルバムの核となるテーマを、restless(落ち着きのない)で強烈なエネルギーと共に表現しています。

Luke Batherが監督したミュージックビデオは、エロティシズムと悪夢の狭間を描き出しています。ダグラス・サーク作品に見られる鏡を用いたフレーミングで心理的閉塞感を表現し、疎外の象徴としてテレビを配置するなど、ファスビンダーやフランシス・ベーコンの絵画からの影響が色濃く反映されています。70年代のベルリンのアーカイブ映像と共に、アナログ放送の幽霊のように現れるCoxの姿は、逃れられない過去と「ニュー・ジャーマン・シネマ」という運動へのオマージュを視覚化しています。

リーズのポストパンクの旗手Treeboy & Arc、新作『GOOSE』を4月に発表。地下室から世界へ響く、冷徹なノイズと皮肉の美学

リーズ出身の4人組ポストパンク・バンドTreeboy & Arcが、ニューアルバム『GOOSE』を2026年4月10日にClue Recordsよりリリースします。先行シングル「Red」の公開と共に発表された本作は、10代の頃からの友情と、リーズの赤レンガ造りのテラスハウスの湿った地下室で卵パックを防音材にして磨き上げた、彼ら独自のサウンドの進化形です。アヴァンギャルドなノイズとクラウト・パンクの要素をポップな構造にぶつけ、北イングランド特有の皮肉とウィットを交えたダークな世界観を構築しています。

バンドは「個の集合以上の力」を信条とし、緻密に絡み合うギターメロディと堅牢なリズムセクションが、幻滅や損失、あるいはボブ・モーティマーへの執着といった抽象的な物語を支えています。デビュー作『Natural Habitat』では、納得がいかずに一度全編ボツにして再録音するという徹底した完璧主義を見せましたが、今作『GOOSE』でもその実験精神は健在です。EMI Northと提携した地元リーズのClue Recordsから放たれる本作は、より野心的で鋭利なサウンドを追求しています。

これまでにBBC 6 MusicやSo Young Magazineなど主要メディアから絶賛され、Parquet CourtsやShameといった強豪ともステージを共にしてきた彼ら。名匠Matt Peelと共に作り上げた新しいサウンドは、不安から超自然的な事象まで、幅広い感情のスペクトルを冷徹かつ情熱的に描き出しています。地元リーズのDIY精神を核に持ちながら、ヨーロッパツアーを経てさらにスケールアップした彼らの「今」が、この最新作には凝縮されています。

シカゴの奇才Rami Gabrielが放つ衝撃作『Tunderizer』。アラブの調べとインダストリアル・ノイズが家庭の深淵で交錯する

ベイルート生まれシカゴ拠点のマルチ奏者Rami Gabrielが、ソロ2ndアルバム『Tunderizer』を3月27日にSooper Recordsからリリースします。先行シングル「Majesty and Misery」の公開と共に発表された本作は、ポストパンクやインダストリアルの過激な実験性を、家庭という親密な空間へと注ぎ込んだ野心作です。ローファイなノイズ・アートやフィールド・レコーディングを駆使し、鏡を横切る影のように、精緻なソングライティングをあえて音の網目で覆い隠す独特の手法をとっています。

本作の最大の特徴は、カントリーやデルタ・ブルースから、アラブ古典音楽の「タラブ(tarab)」、さらには解体的なノイズに至るまで、あらゆる音域を自在に横断する音楽的語彙の広さです。ウードやブズクを操り、シカゴの伝説的奏者からジャズやブルースを学んだ彼だからこそ成し得た、伝統と前衛の稀有な融合がここにあります。それは抗いがたいメロディと破壊的な静電気のようなノイズが同居する、スリリングな聴覚体験をもたらします。

Rami Gabrielは、自身のプロジェクト「The Arab Blues」を率いる傍ら、Buddy Guyのようなルーツの巨匠からFire-Toolzといった実験派アーティストまで、極めて幅広い層と共演・交流してきました。Jake Karlsonが編集を手がけた新曲のビデオでも、その多層的な芸術性が視覚化されています。伝説的バンドNRBQのメンバーとの共演歴も持つ彼が、ポストパンクの感性で自身のルーツを再構築した本作は、ジャンルの境界線を軽やかに飛び越える現代のアート・ポップと言えるでしょう。

ADULT.が4年ぶりの新作『Kissing Luck Goodbye』を発表。腐敗した世界に突きつける、団結と抵抗のインダストリアル・パンク

デトロイトのエレクトロ・デュオADULT.(Nicola KuperusとAdam Lee Miller)が、前作から4年ぶり、通算10枚目となるアルバム『Kissing Luck Goodbye』を3月27日にDais Recordsからリリースします。混迷を極める現代社会を「地獄絵図(hellscape)」と称する彼らは、絶望に打ちひしがれるのではなく「戦うこと」を選択。25年以上のキャリアを経てなお、現状への怒りと危機感を剥き出しにした、極めて今日的なステートメントとしての作品を作り上げました。

先行シングル「No One is Coming」は、道徳的崩壊や政治的腐敗を痛烈に批判する力強いアンセムです。2025年初頭に書かれたという歌詞は、1年後のリリース現在、より切実な響きを持って響きます。Nicola Kuperusは、人類の幸福よりも私利私欲を優先する権力者たちの姿勢を「政治的コスプレ」と切り捨て、今まさにリアルタイムで起きている混乱に対して、強い警戒心と自立の必要性を訴えています。

この楽曲は、単なる批判に留まらず、コミュニティの結束を促す「徴兵布陣(call to arms)」でもあります。環境科学者の言葉を引用し、これからの時代に最も重要なのは「隣人を知り、互いの強みを理解し、助け合うこと」だと説いています。「誰も助けには来ない、自分たち以外は」という一節には、SNSによる分断や政治的な狂騒に惑わされず、抗議の声を上げ続け、互いに慈しみを持って団結しようという、ADULT.からの切実で希望に満ちたメッセージが込められています。

ヒップホップ界の精鋭が集結。Sideshow、新作で「捕食者と獲物」の寓話をメタファーに描き出す、過酷な世界の真実

ティグレ出身のインディー・ラッパーSideshowが、2ndアルバム『Tigray Funk』を2月27日に10kレーベルからリリースすることを発表しました。全32曲という壮大なボリュームの本作には、NiontayやEl Cousteauといったラッパーに加え、Surf GangのharrisonやTony Seltzerなど、現代のヒップホップ・シーンを牽引するプロデューサー陣が集結。先行シングルとして、Juan Nietoが監督を務めたミュージックビデオと共に、滑らかで躍動感あふれるトラックが印象的な「Lifes As Violent As You Make It」が公開されています。

アルバムの核心にあるのは、エチオピアのティグレ紛争で彼自身が直面した惨劇や、アメリカにおける黒人としての実存、そして「アメリカン・ドリーム」を追う執念といった、極めて個人的かつ鋭い社会観察です。断片的な恐怖の記憶と失恋の痛みが交錯する本作は、彼が見つめる世界のありのままを記録した「濁りのないドキュメント」として機能しています。Sideshowの剥き出しの誠実さは、自身の経験によって研ぎ澄まされた知恵を世に問うための、明確な目的を持った表現となっています。

また、本作には動物たちがなぜ「捕食者」と「獲物」になったのかを語る寓話がアルバム全体に挿入されており、弱肉強食の世界を生き抜くためのメタファーとして機能しています。この構造がSideshowの過酷な経験に基づいた洞察をより深めており、単なる音楽作品の枠を超えた、重厚な物語性を提示しています。暴力的な現実に翻弄されながらも、自らの知恵を武器に突き進む彼の「ウェザード・ウィズダム(鍛えられた知恵)」が凝縮された野心作です。

孤独の咆哮と夢想の調べ。Këkht Aräkhが最新作で提示する、90sブラックメタルへの敬意と現代的実験精神の融合

ウクライナ出身のDmitryによるプロジェクトKëkht Aräkhが、最新アルバム『Morning Star』を3月27日にSacred Bones Recordsからリリースします。ベルリンとストックホルムで録音された本作は、これまでの作品で確立してきた「凶暴なブラックメタル」と「内省的なバラード」の緊張感をさらに深化させた作品です。長年のスランプや不安を乗り越えて到達した本作は、これまで以上に生々しくパーソナルな感情が反映された、彼の芸術的旅路における一つの到達点となっています。

本作では、ドラムにJonathanを迎え、Dmitry自身がほぼ全ての楽器を担当。さらに、人気ラッパーBladeeとの意外な共演や、Varg2™らによる抽象的なサンプリングが加わっています。これにより、90年代ブラックメタルの伝統を継承しつつも、アナログの温かみやローファイな質感、実験的なサウンドが同居するユニークな音像が完成しました。マスタリングはEmptysetのJames Ginzburgが手がけ、ダイナミックで豊かな残響を引き出しています。

収録曲には過去の素材を再構築した楽曲も含まれており、激しい疾走感と静かな瞑想の間を行き来するような構成が特徴です。先行シングル「Three winters away」に見られる変容への考察をはじめ、孤独、彷徨、実存的な葛藤といったテーマが、深く沈み込むようなメランコリックなメロディと共に綴られています。伝統と革新、そして私的な告白が融合した本作は、Këkht Aräkhという稀代の表現者の現在地を鮮烈に示すステートメントです。

北欧の異才Atlanter、10年の時を経て復活。新作『Klokker』で描く、砂漠のブルースと北欧フォークが交錯する唯一無二の境地

ノルウェー出身の4人組バンドAtlanterが、独自のジャンル「ヴィッデブルース(viddeblues)」をさらに深化させた3枚目のアルバム『Klokker』を2026年にリリースします。2013年のデビュー以来、スペルマン賞や北欧音楽賞へのノミネートなど高い評価を得てきた彼らは、プログレ、クラウトロック、ワールドミュージックを融合させた唯一無二の音楽宇宙を再構築しています。

前作『Jewels of Crime』から10年ぶりとなる本作は、メンバーがソロ活動を経て再集結し、純粋な演奏の喜びに立ち返ることで生まれました。クリックトラックやインイヤーモニターを排し、4人が楽器を持ち寄ってジャムや探究を重ねるという極めてシンプルな手法を採用。アフリカのデザート・ブルースからノルウェーの伝承音楽までを飲み込んだ緻密なギターワークと催眠的なリズムが、聴き手を壮大な旅へと誘います。

40代を迎えたメンバーの内省的な視点を反映した本作は、実存的なテーマを扱いながらも、過度な装飾や研磨を削ぎ落とした「ありのまま」の響きを大切にしています。年齢を重ねて自分たちが本当に求める音を理解したからこそ到達できた、円熟味と遊び心が共存する表現力豊かな作品となっており、彼らにしか鳴らせない「音のパノラマ」が10年の時を経て鮮烈に描き出されています。

Gareth Donkin、待望の2ndアルバム『Extraordinary』を4月に発表。Quincy Jones譲りの壮大なアレンジで描く、自己解放のソウル・ポップ

ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター兼プロデューサー、Gareth Donkinが、待望の2ndアルバム『Extraordinary』を4月24日にdrink sum wtrからリリースします。De La Soulの作品への参加やデビュー作『Welcome Home』での成功を経て、現在25歳の彼は、過去の挫折や失恋を乗り越えて本作を完成させました。DisclosureのHoward LawrenceやStones ThrowのKieferなど多彩なゲストが参加し、自己の価値を見つめ直し、制限を解き放った「現在進行形」の自信に満ちた作品となっています。

サウンド面では、Quincy JonesやEarth, Wind & Fireといったレジェンドたちを彷彿とさせる壮大なホーン・アレンジやディスコ、R&B、ファンクの要素を融合させ、かつてないほどスケールアップしています。19歳から制作していた前作に比べ、今作はより現代的で洗練された「今の音」が追求されました。ロサンゼルスへのラブレターであるオープニング曲「Out Here」から、内省的なスロージャム、ハウスの要素を取り入れたポップソングまで、ジャンルを越えた流動性と現代的な輝きを放っています。

このアルバムの核心にあるのは、大人の階段を登る中で得た「自律」と「楽観主義」です。かつての世間知らずな自分を脱ぎ捨て、自尊心を持って人生の主導権を握る決意が、タイトルトラックや「Please Don’t Give Up!」といった楽曲に刻まれています。自分自身と向き合い、良き仲間に囲まれることで手にした希望が、ヨットロック的なグルーヴや瑞々しいハイテナー・ボーカルを通じて表現されており、表現者として新たな夜明けを迎えた彼の「今」を象徴する一作です。