Tracey Nelson – “Dolly’s Coat”

ニューヨーク出身のTracey Nelsonが、インディーレーベルPerennial(Perennial Death)よりニューシングル「Dolly’s Coat」をリリースしました。もともとCD-Rで自主制作されていた本作は、同レーベルによって広く世に送り出されることとなりました。特筆すべきは、そのアーティスト名が彼の母親の名前であるという点です。彼は「トラブル・ソングの吟遊詩人」として、その名を背負い、飾らない言葉で現代のブルースとも呼べる物語を紡ぎ続けています。

楽曲「Dolly’s Coat」は、ストリップでの光景や失われた輝き、そして祈りの虚しさを、薄氷を踏むような危うい世界観とともに描いています。歌詞に登場する「ドリーのコートを着た自分を見ていて」という印象的なフレーズは、ある種の変身や救済、あるいは虚勢を象徴しているかのようです。氷のように冷たく、それでいて剥き出しの感情を湛えた彼の音楽は、装飾を削ぎ落としたからこそ到達できる、切実な真実を聴き手に突きつけます。

90年代インディーの煌めきと現代のダイナミズムが交錯する――タフでムーディーな「ジャングル・ポップ」の新たな到達点

Miranda Soileau-Pratt のソロ・プロジェクトとしてオレゴン州で始動した The Spatulas が、待望のニューアルバム『A Blue Dot』を2026年5月15日に Post Present Medium からリリースします。初期作品で見せた宅録特有の切なさとサイケデリックな揺らぎを継承しつつも、本作はそれらを凌駕する全く新しいエネルギーに満ちた一作へと進化を遂げました。

マサチューセッツ州ケンブリッジへの移住と新メンバーの加入を機に、サウンドはかつての緩やかな煌めきから、フルスロットルのロック・ダイナミズムへと変貌。Luke Einsiedler(G)、Elijah Bodish(B)、Greg Witz(Dr)と共に練り上げられた音像は、SF Seals や Rain Parade を彷彿とさせる、タフでムーディーなジャングル・ポップの爆発力を見事に体現しています。

本作の完成後、Miranda と Elijah はインディアナ州へ拠点を移しましたが、この最強のラインナップによる演奏活動は継続されています。世界が混迷を極める今、2026年夏に予定されているアメリカ東海岸ツアーは、ファンにとって「人生における数少ない楽しみ」となるはずです。Emily Robb の録音と Sarah Register のマスタリングにより、ラウドで誇り高い響きを手に入れた本作は、バンドの新たな金字塔となるでしょう。

Swapmeet – “I Know!”

インディー・ロックの名門レーベル Winspear 初の国外アーティストとして、オーストラリア・アデレード出身の4人組、Swapmeet が電撃デビューを果たしました。かつて地元の別々のバンドで活動していた Venus O’Broin、Joshua Doherty、Maxwell Elphick、Jack Medlyn の4名によって結成された彼らは、Pavement や Sonic Youth といった先駆者たちを彷彿とさせる、ざらついた質感を備えつつもポップな感性が光るサウンドを鳴らしています。

新曲「I Know!」は、練習中のジャムセッションから偶発的に誕生した楽曲で、緻密な分析をあえて排除した自発的なリリックと瑞々しいエネルギーが特徴です。詳細が期待されるデビューアルバムの全貌はまだ明かされていませんが、今回公開されたDIY精神あふれるビデオからも、彼らが持つ独特のインディー・スピリットを感じ取ることができます。

言葉にできない恋心を音楽に。LowertownがSummer Shade移籍第一弾となる新曲で描く、陶酔と執着の境界線。

ニューヨークを拠点とする Lowertown が、ニューアルバム『Ugly Duckling Union』のリリース発表とともに、新曲「I Like You A Lot」を公開しました。「どう説明すればいいかわからない」という印象的なフレーズで始まるこの曲は、言葉で伝えるのが難しい感情と格闘する、音楽の本質を突いたチャーミングで荒削りな耳馴染みの良いナンバーです。あわせて、彼らがレーベル Summer Shade と新たに契約したことも発表されました。

メンバーの Olivia Osby と Avsha Weinberg によれば、この楽曲は「新たな恋への希望や、遠くから誰かに憧れ、空想を巡らせる陶酔感」について書かれています。まだ相手をよく知らないまま恋に落ち、共に過ごすかもしれない時間の可能性に胸を膨らませる感覚は、時に強迫観念や執着に近いものになり、まるで身体を支配する「病」のようでもあります。しかし彼らは、それは必ずしも悪いことではないと語ります。

また、この曲には自分の抱く感情が相手に受け入れられるのか、あるいは報われないのかという不安や不確実性も投影されています。発表と同時に公開された「I Like You A Lot」のミュージックビデオは、そんな恋心の愛らしさと不安定さを象徴するような、親しみやすく心に響く映像作品に仕上がっています。

日常に潜む「逆転のホスピタリティ」。Guestsが贈る、親密で不条理なポップの迷宮

Guestsは、Jessica HigginsとMatthew Walkerdineによるホームレコーディング・プロジェクトです。そのユニット名は、ライブのキャンセル対策という現実的な理由の一方で、他人の家を訪ねてワインを分け合ったり、ソファで寝落ちしたりといった「逆転したホスピタリティ」の感覚を象徴しています。個人の世界が交差し、居場所が作られる瞬間に宿る親密さや、旅先のホテルで清潔なシーツに触れる時のような、時間的・物質的な心地よさを音楽に落とし込んでいます。

デビュー作では「夢の底から書かれたコラージュ」や「音楽を愛し、同時に憎む人のための音」と評された彼らですが、2026年4月発売の新作『Common Domestic Bird』でもその独創的なスタイルを継承しています。シンセサイザーやサンプリング、フィールドレコーディングを初歩的なドラムリズムに重ね、歌や語りを添えた9つの新曲を収録。前作よりも構造化された作曲とメロディの深みが加わりつつも、未完成の美学を感じさせるオフビートなリズムは健在です。

レディングで制作された本作は、建築や噂話、年末のリスト、あるいは脊椎の構造といった断片的なビネット(情景)を通じて、日常のあちこちに潜む「主題」を暗示します。時に滑稽で、時に悲しく、あるいは苛立ちを孕んだその楽曲群は、聴き手自身の内面を映し出す鏡のような存在です。日常に溶け込みながらも、どこか非日常的な違和感と愛おしさを同居させた、成熟したポップ・ミュージックへと進化を遂げています。

ニューヨークとベルギーの異能が激突――Rump State が提示する「不協和の極致」

元 Sightings の Mark Morgan(ニューヨーク)とノルウェーの奇才 Gaute Granli(ブリュッセル)によるデュオ Rump State が、最新アルバム『Psychic Sidekick』から新曲「I Know Your Name」をリリースしました。2017年の出会いから50日間の共同ツアーを経て結成された彼らは、パンクとプログレの境界で「合意できないことに合意する」という独特の信頼関係を築き、コロナ禍による延期を乗り越えて本作を完成させました。

新曲を含む本作は、ミシガン州レッドフォードの Entropy Studio で録音されました。事前に話し合われたのは「二人のボーカルを重視すること」「ギターは Morgan、エレクトロニクスは Granli が担当すること」のみ。この最小限のルールから生み出されたサウンドは、既存の楽曲構造を一度解体し、スクラップとして売り払うかのような、耳障りで目も眩むような破壊的な音響体験へと昇華されています。

2023年のデビュー作『Retaliation Aesthetics』に続く本作は、2026年2月現在、今年最も挑戦的なアルバムの一つとして数えられています。大西洋を越えた二人の強烈な個性が激突する様は、単なる「議論」を無意味にするほどの衝撃を放っており、聴き手の文明的な価値観を根底から揺さぶる、極めて刺激的なポスト・ノイズ作品となっています。

二人の「共通点」が生んだ奇跡のハーモニー――The Sleeves が提示する新時代のデュオ像

Modern Natureのメンバーとしても知られるJack CooperとTara Cunninghamによるデュオ、The Sleevesが、セルフタイトルのアルバムから新曲「Come On Man」をリリースしました。即興演奏が主体だった昨年のデビュー作『Mossy Tapes』から大きな飛躍を遂げた本作は、二人のボーカルとギターの相互作用に焦点を当てた、全10曲の瑞々しい歌の数々を収めています。

このプロジェクトの核心は、二人の音楽的アプローチの完全な一致にあります。南ロンドンの即興演奏の夜に出会い、グラスゴーからの帰り道の渋滞の中でThe Mamas & The Papasらを歌いながら結成された彼らは、ギターを弾きながらも「鳥の声やラジオのノイズ」のような非ギター的な響きを探求。沈黙や余白を大切にする共通の感性が、シンプルながらも深みのある独自のアンサンブルを生み出しています。

アルバム『The Sleeves』は、共通のルーツを引用しつつもジャンルに縛られない「グレーゾーン」でこそ輝く作品であり、Jack Cooperが語るように「他の誰にも作ることのできない音楽」へと結実しました。7月にロンドン、9月にニューヨークでの公演を控えており、2026年の音楽シーンにおいて、最も親密で純粋な「共鳴」を届けるデュオとして注目を集めています。

Taifa Nia – “FML2020”

ベイエリアを拠点に活動するTaifa Niaは、バンドSame GirlsのフロントマンやPortion Clubの創設者など多彩な顔を持つアーティストで、Text Me Recordsよりシングル「FML2020」をリリースしました。彼はギタリストとしても活動する傍ら、飲料愛好家(lover of bevs)というユニークな一面を持ち、多角的なクリエイティビティを音楽シーンで発揮しています。

楽曲「FML2020」の歌詞では、相手の望む姿になれなかった葛藤や、過去の記憶に縛り付けられている苦悩が切実に描かれています。「思い出に恋をしている自分が嫌いだ」という痛切なフレーズと、皮肉にも響く「永遠に君と共にある」というリフレインが、執着と絶望が入り混じった複雑な心情を浮き彫りにしています。

Strawberry Panic – “blood splatter evolution into electric scooters”

Strawberry Panicの最新シングル「blood splatter evolution into electric scooters」は、タイトルから放たれる衝撃的なイメージの通り、カオスとユーモアが混ざり合う独自の世界観を提示しています。血飛沫を想起させるバイオレントな初期衝動が、現代都市の象徴である電動スクーターの無機質な疾走感へと変貌を遂げる様を、予測不能なビート展開とノイズ混じりのエレクトロ・サウンドで描き出しています。

本作では、従来のパンキッシュなエネルギーを維持しつつ、よりデジタルで硬質な質感へと進化を遂げたバンドの現在地が示されています。日常の中に潜む狂気や違和感を、鋭利なギターリフと中毒性の高いシンセサイザーのレイヤーで構築したこの楽曲は、単なる音楽の枠を超え、現代社会のシュールな断片を切り取った実験的なポップ・アートのような輝きを放っています。

bobbieが新作『Lessons』を発表。夢と現実が溶け合うアンビエント・ポップ、新曲「Cloud Vision」解禁

西マサチューセッツを拠点とするアーティスト bobbie が、2026年3月6日に Orindal Records からニューアルバム『Lessons』をリリースします。先行シングル「Cloud Vision」が公開された本作は、ドリーム・ポップの儚さとアンビエントの抽象性、そして親密な歌声が融合した独自のサウンドを展開。前作『Rhododendron』に続き、自らパン職人としても活動する彼ららしい、丁寧で温かみのある表現がさらに深化しています。

アルバムの核心にあるのは、歪んだオムニコードのループやドローンシンセ、深く響くギターが織りなす重層的な音の風景です。エンジニアの Felix Walworth によるドラムと bobbie のボーカルが加わることで、Enya や Cocteau Twins のようなアンビエントな質感と、Frankie Cosmos に通じるポップな詩情が共存。楽曲同士が途切れることなく流れる構成は、まるで波や呼吸のようにリスナーを包み込みます。

今作のイメージの多くは、bobbie が毎朝記録している「夢やビジョン」から着想を得ています。Arthur Russell や Alice Coltrane などの幅広い影響を背景に、「人々や物事をあるがままに愛すること、そして世界を丸ごと受け入れようとする姿勢」をテーマに掲げています。不可能なことだと知りながらも心を開き続けようとするその探求は、2025年4月にブルックリンで録音され、Josh Bonati によるマスタリングを経て、極めて純度の高い作品として結実しました。

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