打楽器的な構造から解放された音の物理学:ガーナへの旅を経てAho Ssanが到達した、カオスと静寂が共生する抽象的音響空間

SubtextとIci, d’ailleursから発表されたAho Ssanの3rd LP『The Sun Turned Black』は、パリを拠点とするNiamké Désiréが、自身の魂の深淵とガーナへの旅で得たインスピレーションを形にした作品です。前作までの厳格な構造から離れ、音そのものが持つ生の物理性や「圧倒的で壮大なノイズの組織化」を追求した本作は、ディアスポラとして生きる自身のアイデンティティや、故郷と生誕地の間に生じる歴史的・個人的な緊張感を反映しています。

アルバムの骨格を成すのは、バイオリニストのASIAをフィーチャーした4部構成の組曲「100 Suns」です。先行シングルとしてリリースされた「100 Suns, Pt. III」は、このプロジェクトが持つ「不安定さ」や「重心の欠如」を象徴する重要なピースとなっています。Désiréは打楽器的な要素を排し、シンフォニックなシンセサイザーと耳を刺すような高域の干渉音、地を這う重低音を対比させることで、単なるアンビエントやノイズという枠組みを超えた、変容し続ける音像を作り上げました。

本作における「暗転」や「崩壊」は、決して終わりを意味するものではなく、新たな知覚の始まりを告げるプロセスとして機能しています。ノイズが収まる瞬間に現れる子守唄のようなチャイムや、崩壊の最中にのみ姿を現す微細なディテールは、聴き手に新しい聴取のあり方を提示します。「100 Suns, Pt. III」から続くこの旅路は、目的地に到達することよりも、予測不能なカオスの中に美しさを見出す体験そのものを優先しており、現代電子音楽における極めてパーソナルで独創的な到達点となっています。