ギタリストであり音楽の探求者でもあるLynn Wrightのソロデビューアルバム『Before The Sinking Plains』、そしてそこに収録されているシングル「El Cabanyal」は、彼が長年ニューヨークなどのアンダーグラウンド・シーンの周辺で培ってきたキャリアの集大成です。長らく自身の固定された芸術的アイデンティティを持たず、コラボレーションや裏方としての活動を好んできたライトですが、近年の大病をきっかけに自身のソロ作品と向き合うことになりました。アルバムのミックスは、ベルリン移住後に親交を深めた作曲家のサイモン・ゴフ(Simon Goff)が手掛けており、ライトが持つ深い音楽的背景が惜しみなく注ぎ込まれています。
このアルバム、そしてシングル「El Cabanyal」の原点は、ライトが神経系の長い闘病生活を送っていた時期にあります。彼が毎朝アパートで作り、背景で静かに流していたギターのループがすべての始まりでした。その中から気に入ったものを録音し、加工したギター、シンセサイザー、そして言葉を持たないヴォーカル(ハミングやスキャットのような歌声)を幾重にもレイヤーとして重ね合わせることで、徐々に明確な楽曲としての構造が形作られていきました。かつて彼が関わってきた激しいバンドや即興プロジェクトのような攻撃性は影を潜め、心地よくもどこか影のあるダークな色彩が美しく残されています。
ライト自身が「曲の形をしたアンビエント、あるいはアンビエントに変装した曲」と評するように、シングル「El Cabanyal」を含む本作は、内省的で壮大な音響世界を描き出しています。色あせたドリーム・ポップや重厚なドローン、静けさを纏ったノワール・フォーク、そしてミニマルなヴォーカル・コンポジションといった要素が緻密に溶け合い、まるで「空と広大な荒野が混ざり合っていく景色」を眺めているかのような、圧倒的な美しさと没入感をもたらす至高の作品となっています。
