パレスチナ系カナダ人のギタリストであり活動家でもあるBilal Nasserが、モントリオールを拠点とする名門レーベルConstellationからのデビュー・アルバム『Every Martyr Is A Universe』を発表しました。ガザでのジェノサイドに対する学生抗議運動の最中に構想された本作は、過酷な情勢下における芸術の意義と価値を問う切実なメッセージを内包しています。主にオンタリオ州ウィンザーのDIYスペース「Uma Loft」で録音され、9名のミュージシャンを迎えたアンサンブル編成によって、クラシック・ギターの背景とパンク、ポストロック、現代音楽の要素を融合させた、連帯と哀悼のダイナミックなオーケストレーションが構築されています。
アルバムのSide Bに収録されたシングル「Who We Used To Be」は、Nasserのこれまでのソロ活動における繊細なアプローチとソングライティング能力が遺憾なく発揮された楽曲です。Nasserの見事なまでに美しく繊細な歌声とフィンガーピッキング・ギターを軸に、ストリングス、ホーン、ピアノ、エレクトロニクスが波のように寄せては返す、オーガニックで細やかな質感に満ちたアレンジメントが施されています。不吉なドローンと著名なパレスチナ人作家Ghassan Kanafaniの音声アーカイブを対比させた前曲から一転し、感情の深みへと誘う美しさが際立っています。
アルバム『Every Martyr Is A Universe』全体は、ポストロックとポストクラシカルが交錯する大曲を配した前半から、Nasserの歌声と緻密な室内楽的アプローチが光る後半へとドラマチックに展開します。Thee Silver Mt. ZionやDo Make Say Think、EsmerineといったConstellationの美学や政治的ステートメントを継承しつつ、パンク由来の主張の強さと前衛的な作曲アプローチ、そして剥き出しの情緒が見事に結実した至高の一作となっています。
