13年の沈黙を破る衝撃の帰還。Boards Of Canadaが最新作『Inferno』で提示する深淵なる儀式とカルトの残像

ミステリアスな電子音楽デュオ、Boards Of Canadaが、待望のニューアルバム『Inferno』を5月29日に長年の拠点であるWarp Recordsからリリースすることを発表しました。今回のカムバックに際し、一部の熱狂的なファンに謎めいた音楽と映像が収められたVHSカセットが届いたほか、SNSでは「Tape 05」と題されたクリップが公開されるなど、彼ららしい不可解な手法で予兆が示されていました。

本作は全18曲で構成されており、そのタイトルはカルト的な信仰体系や儀式のプロセスを想起させます。たとえば「Age of Capricorn」は陰謀論めいたSF映画『カプリコン・1』を、「The Process」はサイエントロジーから派生したかつての宗教団体を暗示しているのではないかと推測されています。これまでの作品でも見られた秘教的なテーマが、今作ではより具体的なコンセプトとして掘り下げられているようです。

現在公開中のプレビュー映像には、彼らが象徴的に用いてきた「六角形」が、ゆっくりと色を変えながら繰り返される様子が映し出されています。熱心なファンの間では既に、数学的な図形やタイトルに隠された真意を巡ってさまざまな考察が飛び交っていますが、その全貌はリリース当日まで厚いベールに包まれています。13年の沈黙を経て放たれる本作は、再び音楽シーンに深い衝撃を与えることになりそうです。

Dirty Beaches以降の探究が結実した2026年の最重要作。映画音楽から即興芸術までを横断するAlex Zhang Hungtaiの新境地

Alex Zhang Hungtaiは、2026年6月19日にAmerican Dreamsからリリースされる新作2枚組アルバム『Orion/Mother』を発表し、先行シングルとして「Sidewinder」とタイトル曲「Mother」を公開しました。本作は、彼が「無意識の中にある根源的な状態」と呼ぶものを探求しており、語られず隠されてきたものと対峙するプロセスを描いています。Dirty Beachesの名義を2016年に終了して以来、ピアノ作品や即興音楽など枠にとらわれない活動を続けてきた彼にとって、2026年で2作目となる重要なプロジェクトです。

制作面では、ニューヨークの優れた即興演奏家たち(Che Chen、Leo Chang、Madison Greenstone、Laura Cox、Lester St. Louis、Kwami Winfield、Melissa Almaguer)とのホームレコーディングを素材として使用しています。個人的な転換期にニューヨークのリハーサルスペースで2週間にわたり集中して録音され、過去のセッション音源をAbletonで切り貼りしたライブサンプルに対し、Alex Zhang Hungtai自身がトランペットで即興を重ねる手法が取られました。彼にとってトランペットは、作品全体の概念的な語り手であり、軸となる役割を果たしています。

本作のサウンドは、鳴り響くエレクトロニクス、打楽器の衝撃、そして静寂の間を縦横無尽に行き交います。それは、過去の未解決の断片を現在へと引き寄せ、全く新しいものを構築していくプロセスそのものです。「休眠していた何かが目覚め始めたような音」と本人が語る通り、俳優としてのキャリアや映画『Godland』の音楽制作を経て、独創的な感性と迷いのない表現が融合した、2026年で最も注目すべきリリースの一つとなっています。


Emily A. Sprague – “Double Moon”

シンセシストであり作曲家のEmily A. Spragueは、直感的なサウンド構造と表情豊かなソングライティングを融合させ、即興性と没入感を兼ね備えた広大な音の風景を創り出しています。10代の頃からギターやキーボードで実験的な試みを始め、2010年代初頭にはインディー・バンド Floristを結成。多くの熱心なファンを獲得した後、2017年からは自身の名を冠した環境音楽やアンビエント作品へと表現の幅を広げました。

彼女は両方のプロジェクトで精力的にリリースを続けており、2025年にはFloristとして『Jellywish』と『Cloud Time』を発表しました。そして現在、最新作となるEP『Double Moon』をリリース。長年のキャリアで培われた繊細な音響工作と、聴き手の心に寄り添うような深い物語性が共鳴する、彼女の新たな音楽的到達点を示す作品となっています。

Tyondai Braxton – “Piiano”

アメリカの作曲家兼プロデューサーであるTyondai Braxtonは、マルチメディア作品からオーケストラ、ソロのエレクトロニクスまで多岐にわたる音楽を手掛け、物語性を孕んだ立体的で鮮やかなサウンドスケープを構築してきました。かつてはニューヨークのマスロックバンド、Battlesのメンバーとしても活躍し、これまでにPhilip GlassやKronos Quartetといった巨匠たちともコラボレーションを重ねてきた、現代音楽シーンの重要人物です。

最新作の「Piiano」は、加工されたピアノの音色を軸に、周囲を渦巻くようなエレクトロニクスが不気味かつ未知の領域を演出する一曲です。WarpやNonesuch Recordsからリリースされた過去作『Central Market』や『HIVE1』で見せた独自の美学を継承しつつ、聴き込むほどに細部が浮き彫りになる緻密な音響設計が施されています。Four TetやTim Heckerらとステージを共にしてきた彼らしい、実験的でありながら没入感の強い仕上がりとなっています。v

10年の絆が紡ぐ「愛と信頼」の即興。Holland AndrewsとMethods Bodyが放つ、現実と幻想が交錯する急進的なアート・ポップの結晶

2025年グッゲンハイム・フェローのHolland Andrewsと、ポートランドのデュオMethods Bodyによるコラボレーション・アルバム『REMAIN』から、先行シングル「Lightning Rod」が発表されました。本作は、2024年にニューヨークで行われたソールドアウト公演の熱量をそのままに、ブルックリンのスタジオで全編ライブ録音された完全即興作品です。10年以上に及ぶ彼らの深い友情と音楽的信頼関係が、最高レベルの即興演奏として結実しています。

サウンド面では、巧みなグルーヴとHolland Andrewsの魂を揺さぶるヴォーカリゼーションが交錯し、切実で大気のような質感を持つ「アート・ポップ」へと昇華されています。ドラムやヴォーカルをLuke Wyland独自の電子システムに通してリアルタイムで屈折させる手法により、即興でありながら緻密なマルチトラック・プロダクションのような深みを実現。ゲスト参加のShahzad Ismailyも加わり、現実と幻想の狭間を行き来するような、重力のある音響空間を作り上げています。

本作は単なる音楽作品に留まらず、自由の制限に対する憤りや、集団的な抵抗、そして革命の美学を内包した「自由への実践」でもあります。社会化された自己の代償を綴ったテキストを直感的に再構成した歌詞は、創造と革命の炎を道標に、現代社会の核心を突くメッセージを放ちます。Catherine Ribeiro + Alpesの系譜を継ぐような、激しくも解放的な精神性が全編に溢れる、鮮烈な音楽組曲となっています。


燃え尽きから再生へ、自身の「内なる炎」を音に刻む――Tony Njokuが新作EP『A World of Bodies on Fire』で辿り着いた、感情の吐息と静かなる啓示

Tony Njokuは、6月12日にリリースする新作EP『A World of Bodies on Fire』の発表とともに、タイトル曲を先行公開しました。前作『All Our Knives Are Always Sharp』で精神的な生存や文化的抵抗といったテーマを扱った彼ですが、本作ではその視点を内面へと向け、身体、自己、そして環境の間に揺れ動く境界線を模索しています。電子的な抽象性とシネマティックな構成を軸にした、全4曲のインストゥルメンタル作品です。

制作背景についてTony Njokuは、燃え尽き症候群や失望を経験した後の怒りや悲しみを解放するプロセスであったと語っています。本作は、彼にとって「激しい吐息」や「静かな啓示」のようなものであり、自分の中に溜まっていた炎の中を突き進み、感情を吐き出すことを目的として生まれました。溢れ出る感情と瞑想的な調べが交錯する、極めてパーソナルで情熱的なEPとなっています。


Goldmund – “Joy Of Giving”

ペンシルベニア州出身のKeith Kenniffは、名門バークリー音楽大学を優秀な成績で卒業したマルチアーティストです。Helios名義でのアンビエント/エレクトロニック作品や、Goldmund名義でのポストクラシカルなピアノ・ミニマリズムで知られ、特にGoldmundの音楽は坂本龍一から「とても、とても、とても美しい」と絶賛されるなど、その高い音楽性は世界的な評価を確立しています。

また、妻のHollieと共にHarbors(アンビエント)やMint Julep(ドリームポップ)としても活動しており、Mint Julepのデビューアルバム『Save Your Season』はNME誌から「疑いようもなく美しい」と評されました。これらの多岐にわたる名義で発表された作品群は多くの批評家から愛され、その楽曲はApple、Facebook、Google、Paramount、MTV、Warner Brothersなど、世界的な企業の映像作品や広告にも数多く起用されています。

一切のデジタルを排した純然たる「AAA」の極致。BCMCが最新作『Stash』で到達した、アナログ・テープだけが捉えうる生々しい宇宙的グルーヴと音響の深淵

Cooper Crain(オルガン、シンセ)とBill MacKay(ギター)によるデュオBCMCが、2026年6月26日にDrag Cityからセカンドアルバム『Stash』をリリースします。先行シングル「Kaleidosmoke」を筆頭に、本作は二人の直感的なインタープレイが炸裂するエネルギッシュな作品です。アラブ、インド、フラメンコ、ソウルといった世界各地のグルーヴが、フォークやジャズ、プログレ、実験音楽といった枠組みを超えて混ざり合い、境界なき宇宙的な音像を提示しています。

本作は、緻密に構成された楽曲と即興演奏が渾然一体となった、比類なきエレクトロ・アコースティックの記録です。FloydやCanといった偉大な先人たちの残響を内包しながらも、ギターと鍵盤が空間を押し引きするダイナミックな対話を通じて、独自のパターンと生命力を生み出しています。ミニマリズムとサイケデリックな陶酔感が共存するサウンドは、聴き手をワイドスクリーンで見るような壮大な音楽体験へと誘います。

音質への徹底したこだわりも本作の大きな特徴です。Electrical Audioでのアナログ・テープ録音を経て、デジタル機材を一切介さない「純然たるAAA(フルアナログ)」プロセスで制作されました。厳選された機材と空間によって捉えられたシグナルは、極めて生々しく豊かな質感を湛えています。職人的なディテールへの探求と、野性的なジャムのエネルギーが完璧なバランスで封じ込められた、妥協なきアナログの極致とも言える一枚です。


現代ジャズの最前線から、ジャンルの境界を消失させる未知の音響へ。Nonesuch Recordsから登場する、AmbroseとMaryによる不屈の創造の記録

Ambrose AkinmusireとMary Halvorsonという、現代音楽シーンを牽引する二人の独創的な作曲家・演奏家によるデュオ・アルバム『Slo-Mo Neon Luminate Hoverings』が、2026年6月12日にNonesuch Recordsからリリースされます。2009年からの長きにわたる友情と、過去2回の録音の試行錯誤を経て完成した本作は、ニューヨークの名門クラブ「The Stone」での公演直後に録音されました。互いの音楽性への深い信頼と、「何もする必要がなく、同時に何でもできる」という稀有な共鳴関係が、全9曲の構成(各自の新曲4曲+共作1曲)の中に結実しています。

本作の大きな聴きどころは、Maryから譲り受けたエフェクト・ペダル「Line 6」をAmbroseが初めて導入している点です。Ambroseはペダルを単なる機材ではなく、独立した「もう一人のミュージシャン」として捉え、機械が生成する残響やディレイに即興で反応する手法を採用しました。長年エフェクターを巧みに操ってきたMaryをして「手にした瞬間から独自の音を生み出し、ボーカライズ(発声)を交えた驚きの表現を見せた」と言わしめるほど、直感的かつ独創的なアンサンブルが展開されています。

Ambrose Akinmusireは、2025年度のDownBeat誌批評家投票でトランペッター・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど高い評価を得ながらも、ジャズの枠に留まらず、クラシックやヒップホップ、そして精神的な価値を重んじた表現を追求し続けています。本作においても、黒人音楽の革新の系譜を継承しつつ、ジャンルの制限を設けない自由なアプローチを提示。「誤解を恐れず創造を信じる」という彼の揺るぎない姿勢が、Maryの鋭利なギターワークと交わることで、現代の音楽地図を塗り替える豊潤なエモーショナル・ランドスケープを描き出しています。


記憶と自我を解体し、生々しいサウンドの深淵へ。先行シングル「The Ice Is Thin」が示す、Ital Tekによる重厚かつ人間味あふれる音像の進化

Ital TekことAlan Mysonが、ニューアルバム『Mind Abandon』のリリースを発表し、先行シングル「The Ice Is Thin」を公開しました。近年のドローンや映画音楽的なアプローチから一転、本作ではコンピューターから離れた直感的な制作を重視。自身の歌声を加工したパッド音やテクスチャ、そしてギターを中心に据え、生演奏のパーカッションを交えることで、より人間味あふれる不完全さや温もりを内包したサウンドへと進化を遂げています。

先行曲「The Ice Is Thin」は、リバーブに包まれたライブ・ギターとキーボードを主体とした、高揚感あふれるオープナーです。アルバム全体としても、自身のDNAであるダブステップのダイナミクスを根底に持たせつつ、インダストリアルやシューゲイザー、ポストロックの暗部を織り交ぜた立体的な構造となっています。時には愛娘のおもちゃのウクレレの音を加工して取り入れるなど、身近な素材からシネマティックで広大な世界観を構築しています。

Alanはこの制作プロセスを、自らのアイデンティティや自我を失い、精神を沈静化させるための内省的な旅だったと振り返っています。The Cureを彷彿とさせるベースラインや、DAFを思わせるアルペジオなど、多様な音楽的記憶を血肉化しながらも、最終的には「身体と心」から引き出された生々しく重厚な響きへと到達。混沌とした層の中からリズムが浮上しようともがくような、静と動のコントラストが際立つ一作に仕上がっています。