ノルウェーを拠点に活動する音楽家Carmen Villainの楽曲「Entre Nosotros」は、彼女の世界観を色濃く反映した深遠なシングルです。タイトルのスペイン語が持つ「私たちの間で」という意味の通り、本作はリスナーとの間に親密でスピリチュアルな対話を生み出します。彼女が得意とする、空間の広がりを感じさせるアンビエントなエッセンスと繊細な音響工作が施されており、聴く者を深い内省の旅へと連れ出すような、美しくもどこか儚いエモーショナルな名作に仕上がっています。
このシングルも内包される最新アルバム『Memoria』(Smalltown Supersoundよりリリース)は、彼女が2022年の『Only Love from Now On』で提示した地平をさらに押し進めた極めて重要な作品です。アルバム全体の焦点は「記憶としての音」に当てられており、変化し続ける不完全な記憶の性質を、スローダウンされた幽玄なダブやミニマルなアンビエントを通じて表現しています。Pauline Oliverosの「ディープ・リスニング(深い傾聴)」の概念や、アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画『メモリア』からインスピレーションを得て構築された本作は、単なる独我論的な内省を超え、聴き手と周囲の環境を同時に結びつける共感の音楽として機能しています。
アルバムのサウンドは、Johanna OrellanaのフルートやEivind Lønningのトランペット、そしてCarmen Villain自身のクラリネットといった生楽器の響きと、古いアーカイブ素材を緻密に融合させて作られています。息づかいや風の感触といった生々しい人間の気配が、ダブ的なプロセシングのレイヤーを通して変容し、まるで遠い記憶の彼方から響くように現れるのが特徴です。近年の現代ダンスやIRCAMでの立体音響インスタレーションへの関わりが活かされた本作は、すべての音ノイズ(アーティファクト)さえも高い精度で配置されており、実験的でありながらも五感を包み込むような圧倒的な没入型環境を作り上げています。
